企業価値評価の意義
企業価値に興味を持つ人は多い
かつてに比べM&Aが一般的になり、個人にまで広がってきた昨今。
「自分の会社を売却したら、いくらになるだろうか?」と想像する非上場企業のオーナー経営者の方も、増えてきていると感じます。
実際に売る気はないにしても、「自社の価値を参考までに知っておきたい」という方は、それなりの数いるのではないかと思います。
インターネットを見ていると、いくつかの基本的な財務数値を入力するだけで、簡易的に企業価値算定ができるサービスもあるようです。(レンジが広すぎて参考にならないと感じる方が多いようですが、、)
当社でも、企業価値の算定と報告書の作成を行っており、しばしば、「自社の企業価値を知りたいのだが、算定してもらえないか?(興味本位で)」といった相談を受けることがあります。
実際にM&Aを検討しているということであれば、参考までに価値算定させて頂くこともありますが、本当にその価格で買い手がつくかどうかについては、「実際に売却のプロセスを走らせてみなければ分からない」というのが、正直なところです。
企業価値評価の理論
もちろん、企業価値評価の理論自体は、非常によく出来たものだと思います。(私も、留学していた時に、この辺りの理論についてはかなり深く勉強しました)
しかしながら、それを現実世界で実際の算定に当てはめていくとなると、「前提の掛け算」が重なり過ぎてしまい、「ちょっとした前提値の調整で、いかようにでも数値が作れてしまう」ということになってしまうという状況があります。
実際の株式市場を思い浮かべていただければ想像がつくと思いますが、結局のところ、株価や企業価値は、買い手と売り手の力関係で決まっていくという部分が多分にあるものなのです。
証券会社のアナリストが株価を予測しても、その通りに現実が動くことの方が稀ですし、特段の材料がなくても、株価が急騰したり、急落したり、といったことは現実世界では頻繁に起こります。
割高/割安と言われる状態のまま長期間放置されているような銘柄も、少なくありません。
実際に、かつて私が投資会社にいた際に従事した案件でもあったのですが、アドバイザーだった投資銀行が当初算定していた企業価値は130億円、最終的に決着した価格は50億円、ということがありました。
半分以下!
いくら精緻な理論があると言っても、買い手は少しでも安く買いたいし、売り手は少しでも高く売りたい。
どうしても買いたいという買い手候補が大勢いたり、売り手が早く売りたかったり、といった事情も、個別の案件ごとにあります。
つまり、当たり前のようですが、価格は最終的には買い手と売り手の力関係で決着していくものなのです。
企業価値評価の理論の意義
上記を読むと、「それでは、企業価値評価の理論の意義とは?」という疑問が出てくるかもしれません。
それに対する私たちの答えは、「企業価値評価は、合意形成のためのツールであるというところに意義がある」というものです。
なぜ、その評価額が妥当であると判断して、意思決定し、前に進むのかを、関係者に説明し、納得してもらうためです。
例を挙げてみましょう。
例えば、A社が、B社を、10億円で買収しようとしている。
A社の担当者は、A社内で意思決定するために、B社の10億円という価格が妥当であるということについて説明しなければなりません。
場合によっては、A社の投資家や、監査法人等に説明しなければならないこともあるでしょう。
A社が、特段の根拠なく、不当に高い価格でB社を買収したということになってしまうと、A社の経営陣は責任を問われるリスクがあります。
背任を疑われるようなことがあるかもしれません。
そのようなリスクを回避するためにも、A社の経営陣は、判断の妥当性を論理的に説明できるだけの根拠を備えておく必要があります。
そして、まさにそのような時、精緻な理論に基づいた企業価値評価による評価額が、意味を持ってきます。
反論に耐え得るか
一方で、上述の通り、算定される企業価値は、調整する余地が多分にある、非常にふんわりとしたものです。
しかしながら、これは反論によって大きく覆すことが難しいものでもあったりします。
例えば、DCF法において設定される前提値で、「株式市場全体の期待収益率」というものがあります。
これの意味するところは、「株式市場に参加している多くの投資家は、株式市場に投資することで、どれくらいのリターンを期待しているか?」というものです。
この数値をどう設定するかで、結果が大きく変わることもあるのですが、根拠づけをして採用値を決めることは難しく、実務においても、実際のところ、ある程度「決め打ち」で置かれることが一般的です。
この数字を、6%と置くのか、7%と置くのか、はたまた、8%と置くのか。
前提の置き方によって数字が大きく変わるものではありますが、厳密な根拠づけをして採用値を決めることが難しいものはこれ以外にもあり、何がより妥当性が高いものなのか、議論をしようにも現実的に限界があるものが少なくないのです。
そのため、「こういう前提を置いて算定したら、こういう企業価値評価額になります」といったものを根拠に、意思決定をして、話を前に進めていくしかありません。
ということで、企業価値評価は、「それが本当に正しいものであるかどうかは分からないけれども、『まぁ違和感ないかな』と思える一定の前提を元に、理論に沿って算定すればこういう結果になる」として、最終的な着地点に根拠を与え、それを皆で共有し、納得して、話をまとめて前に進むためのツールと言えるのです。
よって、企業価値評価によって導き出される価格は、提示価格に対する根拠として活用することはできますが、相手がそれに納得してくれるかどうか分からない以上、その価格で買ったり売ったりできるとは限らないものです。
企業価値評価については、その点について納得した上で、活用していくべきものと言えます。
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